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ひとりで考える・書くことの限界を少しだけ押し広げるための装置としての交換日記、または遅い会話

大掃除、あるいは生活のデフラグ

2021年8月9日。連休最終日、家中の掃除をした。

きつい風邪で有給を消費したりして数日寝込んだが、無事に全快した。
お久しぶりです。エビカニペカンナッツです。


ここ数か月わけのわからないくらい働きづめだったので、後回しにしていたことがたくさんあって、それらは家に長くいるとひどく目についた。


風邪はなにより心を弱らせる。

寝る以外に何も出来ない時も気は焦り、思考はせわしなく飛び交い、不安は昼なお暗く、寝室を覆いつくす。
寝床で体を起こせないような痛みに呻く、持病の憂鬱が猛威を振るう。同居人に自分の不甲斐なさを嘆き、迷惑を詫び続ける。
熱そのものより体調を崩した時の自責の念のほうがよっぽどつらい。体調はいつか回復するが、体質はそうそう変わらない、はずれくじを引いた、いやいや恵まれているほうで、問題は甘えた根性だ 何度も自問自答を繰り返す。
ぐらぐらする視界のなかで生真面目に毎日飲んでいるサプリメントを取りに行き、最大限の栄養補給をし、今後の対策を考え、こんなに死にたいのに…と面白くなりながら薬で寝た。

 

とはいえ何日か転がっていると元通りになり、比較的前向きで建設的な思考が戻って来て、まず取り掛かったのは大掃除だった。

 

家の散らかりは万病の元だ。

特に自分はアレルギーが酷いので高頻度で掃除する必要があるけど、深夜に帰ってきて毎晩全てを清めて寝る、なんて芸当は流石に出来ず、マスクをして寝ている。が、結局鼻炎起因で発熱したのでまずはマットレスに風を通し、寝具を順に全て洗った。

ベッドサイド周辺の棚なども磨き、床を入念に掃除機で吸った後、拭き掃除をした。
若干マシになり、これ以上はぼくの鼻粘膜を焼き切るほうが早いことがわかった。

 

勢いづいたぼくは、そのままクローゼットやタンスに放置していた冬服を手当たり次第に洗濯乾燥機に放り込み、ぎゅうぎゅうと圧縮袋につめた。

随分着ていない服は袋に詰め、古布回収に出すことにした。過去にほぼ毎日着ていたようなお気に入りの服も、迷ったが、詰めた。

服の役目を終了させるのは象徴的な行為だ。過去との決別で、清算で、新しい自分を受け入れる、そんな気分で感謝を伝えながらこちらもぎゅうぎゅうと回収袋につめた。

 

大学一年の時に購入し、洗濯するたびに「もう寿命だ、捨てなければならない」と言い続けてきた、ボロボロのネコ柄バスタオルも、遂に端切れ雑巾にして ーコンロの油汚れを磨き、シンクを清め、サッシや洗面所やトイレ磨きに使用しー 入念に弔った。

それから家中を掃除機掛けしたあとにウエットとドライのクイックルワイパーで執拗に磨いた甲斐あり、くしゃみは止まった。

 

大掃除は禊に近い。過去を払い、清めて、明日を迎えるためのリソースを確保する。

それでいうとデフラグも禊なのかもしれない。*1

他にもなにか片付けておかなければならない事があったはずだ。積読の山とか、扇風機の裏の埃とか、雑に突っ込んだフィルムのストックとか、本棚の整理とか、ああ、そうだ、交換日記だ。

かくしてぼくは交換日記に辿り着いた。みなさんお待たせいたしました。たいへん、たいへんお待たせいたしました。

ぼくは人間らしい心と部屋と、健康を取り戻し、文字を書く力を取り戻し、喧騒から解き放たれ、窓からは木々を通り抜ける幾分涼しい風と、鳥と、虫の声が響く部屋で、とうもろこしを食べながら、ようやっと、ようやっと心を落ち着けて日記を書いたのでした。

 

ーーー

以下は蛇足であり、ぼく、及び同居人の名誉のために記す部分である。
日記だとあまりに家が酷い惨状のようだが、同居人はまともな人間なので一般的な清潔さは保たれた家にいる。
ぼくも掃除自体は好きだ。蓄えた化学の知識を一番身近で役立てることが出来る行為なので料理と掃除は楽しく、ストレスの解消になる。
しかし事実として、ぼくは極端に整理整頓が苦手だ。

理由はぼくの特性が大半を占め、次にぼくの性格が効いてくる。

ぼくは極端に得意なことと苦手なことがある類の人間で、ワーキングメモリが”終わって”いて、視野が異常に狭い。
視野に入るものは本当に高精細で劇的に美しく見え、すごく些細な違いや性質にも気づくけど、あとは本当になにもわからない。
視野が狭いので部屋全体を捉えることは実質なく、認識している場所以外はすべて存在していないので整頓する根拠が発生しづらく、それでいて非常に移り気で盛んに活動するものだから、結果的に行動の動線が部屋に残っていってしまう。

片付ける段階でも視野が狭いのでどこに何があるべきか、どこが散らかっているかが把握できず、なんかよくわからないまま完了印を押してしまう。同居人と意見が相違するときは大体ここが原因になっている。


性格の問題は、単にぼくが「整理整頓」について常に疑念を抱き続けているからである。つまり、いずれ使うものを毎回奥深くに隠してしまうのは非効率的なのではないか?という至極真っ当な主張である。
この「いずれ使うものを毎回奥深くに隠してしまうのは非効率的な」行為をまともな人間は「整理整頓」と呼び、ぼくが行うと「リスがエサの隠し場所を忘れる」になる。そんな言い訳をし続けていても、一年以上共同生活を送ってきたのでリスも隠し場所を固定すればなんとなく思い出せるようになることがわかった。
そういうみんながなんとなく知ってるルールを改めて知ったりなどしている。成長がある。2021年夏。

お待たせしました。次はしろくまさんです。

*1:リソース確保の一行為であるストレージ購入は禊なのだろうか?買い替えは?しょうもないことばかり無限に考えてしまう